メーカーさん、こんなPC作ってください!

プロ向けXAVC 4K動画をネイティブ編集できるPCを考える(後編)

4K動画編集用のPCが欲しい

 筆者は普段AV Watchで、ビデオカメラやデジタル一眼の動画機能レビューなどを行なっている(記事はこちら)。ここ最近のハイエンドのトレンドは、あきらかに4K動画に傾いている。一方で4Kの試験放送も始まり、4KTVもそこそこ売れているという状況になってきているわけだが、その間を繋ぐ4Kクリエイティブの部分は、ほとんど手つかずというのが実態である。

 平たく言えば、4Kを扱えるPCがないのだ。Appleには「Mac Pro」がある。特に4K編集用とは謳っていないものの、サーバーでもない筐体にあれだけのスペックを詰め込んだ。4K編集以外に何に使うのかと言わんばかりのモデルだ。

 一方Windows PCを見てみると、ハイエンドはサーバーやCAD、CG用途を謳うものはある。だが映像編集に特化したマシンは世の中から激減した。これには理由がある。

 映像の世界は、フォーマットが長らく変わらない。2000年にHD放送がスタートして以来、映像のスタンダードフォーマットはHDに決定した。そこから15年、フォーマットは変わらないままにPCの性能は飛躍的に進化した。今ではノートPCやタブレットでも、HD動画の編集は可能になった。だからストレージ容量があれば、大抵のPCで編集ができてしまう。これが映像編集専用機がなくなった理由だ。

 一方で4K動画は、画面サイズがHDの4倍。さらにフレームレートは、HDが60iであったのに対して60Pが標準なので、2倍。単純計算では、4×2で8倍のデータ量を処理していくことになる。

 しかも動画の編集は、リアルタイムで再生できなければ話にならない。4秒のカットがきちんと4秒で再生できないと、「間(ま)」がわからないのだ。「間」とは体感覚で図る時間で、このカットは何秒あった方がいいか、長く感じるか短く感じるか、そういうことを判断していく重要な要素である。

 最終出力は何らかのフォーマットにレンダリングするわけだが、この時間までリアルタイムを期待するのは野暮というものだろう。すでにHD編集ではリアルタイムを下回る時間で出力が可能になっている現状ではあるが、データ量が8倍であることを考えれば、単純に時間が8倍かかるのはやむを得ない。

 今回はパソコン工房さんにお願いして、2タイプのマシンを作っていただいた。1つはコンシューマカメラ向けに、MP4の4K/30Pファイルを編集可能なもの、もう1つはプロ用フォーマットであるソニー XAVCフォーマットの4K/60Pファイルを編集可能なものだ。どちらも編集用の中間コーデックに変換することなく、カメラで撮影したファイルそのままを編集できるスペックを目指す。ここでは便宜的に前者を「タイプA」、後者を「タイプB」と呼ぶことにする。

 検証にあたり編集ツールは、GrassValleyの「EDIUS Pro 7」を使用した。

コンシューマ/プロシューマ用途なら十分いけるタイプA

 タイプAのターゲットは、パナソニックを中心とするコンシューマカメラのユーザーだ。具体的には、Mac Proの比較的低予算モデルと競合していくレンジである。

【Core i7 5960X搭載マイクロ静音モデル(タイプA)】
OSWindows 8.1 Pro 64bit
CPUCore i7-5960X(3.0GHz、8コア、20MBキャッシュ)
CPUファンCooler Master Hyper 212 EVO
メモリDDR4-2133 8GB×4(計32GB)
SSD1 (システム)240GB Intel 530(読み込み540MB/sec、書き込み490MB/sec)
SSD2 (作業)256GB PLEXTOR M6e M.2 2280(読み込み770MB/sec、書き込み625MB/sec)
HDD(データ)2TB
GPUGeForce GTX 970 4GB GDDR5
光学ドライブDVDスーパーマルチドライブ
マザーASRock X99M Extreme4(Intel X99チップセット)
ケースFractal Design Define Mini
電源Seasonic SS-850KM3 850W 80PLUS GOLD認証
税別価格391,980円
前面
カバーを開けると光学ドライブ。パネルの裏側には吸音材
左側面
カバーを開けたところ
標準では側面にファンはなく、両側カバーとも内部に吸音材が貼ってある
背面
右側面
上面
底面。吸気フィルターは着脱可能
上部のインターフェイス
背面のインターフェイス
ディスプレイインターフェイス
内部前面下に3.5インチシャドウベイ
マウンタはドライバーなしで外せる。HDDのネジにも吸音ゴム
電源ユニット
ビデオカードはGeForce GTX 970
CPUはCore i7-5960X
メモリは計32GB
ブート用のIntel 530 SSD。これと別に作業用に256GB PLEXTOR M6e M.2 2280を搭載
データ用にHDD 2TB
CPUファン

 現在4K編集可能と言われるマシンのほとんどがXeonデュアル構成の中、いくら画像サイズが4Kとはいえ、H.264の編集でそこまで本当にいるのか、という疑問から、Core i7ベースの構成を考えていただいた。ディスプレイ1に編集用画面を表示し、ディスプレイ2にパナソニックの50型4K TV「ビエラTH-50AX800F」をHDMI 2.0で接続し、プレビューモニターとした。

タイプAで4K/30P映像を編集

 実際にこのマシンを使い、パナソニック「DMC-GH4」で撮影した4K動画を編集してみた。カット編集によるリアルタイム再生は、まったく問題ないレベル。TV側のプレビューモニターで時折コマが引っかかる現象が見られるが、これはハードウェアに起因するものではなく、EDIUSのデスクトッププレビュー機能固有の現象で、特に4Kでなくても起こる。EDIUS開発側でも現在品質向上に向けて取り組んでおり、そのうち解決するだろう。

 カットとカットの間を繋ぐトランジションエフェクトも、最近はGPUを使うタイプのものが増えている。パーティクルなど、以前ならレンダリングしないとプレビューも難しかったエフェクトも、リアルタイムで確認可能だ。テロップも複数個載せてみたが、まだCPU性能的には余裕が見られる。

GPUを使うパーティクルエフェクトは楽勝
テロップ合成も問題なし
テロップ合成時のパフォーマンスモニター表示

 次に複数のストリームを同時に走らせる、いわゆるレイヤー合成を試してみた。9面合成を作ってみたが、リアルタイムで動くのは2レイヤーまでで、それ以降はリアルタイムでは動かなかった。パフォーマンスモニターを見ても、CPUの各スレッドがほぼ100%で貼り付いてしまっている。

マルチレイヤーの編集画面
マルチレイヤーでのパフォーマンスモニター表示

 また画面全体をぼかすブラー系のエフェクトも、1つのカットにかけただけだが、これもリアルタイムでは動かせなかった。リアルタイムで動くエフェクトもあるが、処理によって大幅に負荷が違うものが存在する。負荷が高いところは、部分的にレンダリングして確認するしかないだろう。

 注目すべきはメモリ利用量の少なさだ。アプリケーションはEDIUS以外に動かしていないこともあるだろうが、使ってもせいぜい5GB程度である。現在32GB載せているが、半分の16GBでも十分だろう。ただしCGや合成専用のアプリでは、メモリ内に動画のバッファを持たせるのが基本であり、メモリの多さは一度にプレビューできる秒数にダイレクトに響いてくる。編集ソフト以外も使うかに応じて、BTOでユーザーが選択していくことになる。

 光学ドライブの搭載は悩ましいところだ。今多くのアプリケーションもほとんどネットで買える時代であり、インストールに必要なケースは希だろう。かたや4K素材や完成品を保存するメディアとしてはDVD-Rは少なすぎで、BD-Rぐらいは必要になる。いずれにしても利用頻度は少ないので、むしろ光学ドライブはユーザーが好みで外付けを用意することで十分だろう。

 惜しいのは筐体サイズだ。マザーボードはmicroATXだが、グラフィックスカードの幅と高さゆえ、ミニタワーサイズになっている。Mac Proみたいにとは言わないが、スリム型やキューブ型など、デザイン的に何かちょっと違うぞといった面白みも欲しいところではある。

 ただマシンの静音性は高い。動作中にもかかわらずほぼ無音で、近くにある空気清浄機の方が断然うるさいレベルだ。これは、ある程度容積があるから静かという面もあり、デザイン性や小ささを取るか、静音性を取るか、悩ましいところである。

課題が見えてきたタイプB

 一方プロ用も視野に入れたタイプBでは、Mac Proのハイエンドモデル同様Xeon E5をデュアルで搭載するモデルだ。他社ではグラフィックスワークステーションクラスに相当するスペックと言える。

【デュアルXeon搭載上位ミドル静音モデル(タイプB)】
OSWindows 8.1 Pro 64bit
CPUXeon E5-2687Wv3(3.1GHz、10コア、25Mキャッシュ)×2
CPUファンSupermicro SNK-P0050AP4 ×2
メモリDDR4-2133 ECC Registerd 8GB×8(計64GB)
SSD 1(システム)240GB Intel 530(読み込み540MB/sec、書き込み490MB/sec)
SSD 2(作業)400GB Intel DC P3600(読み込み2,600MB/sec、書き込み1,700MB/sec)
HDD(データ)2TB
GPUGeForce GTX 970 4GB GDDR5
光学ドライブ24倍速DVDスーパーマルチドライブ
マザーASUS Z10PA-D8(Intel C612チップセット)
ケースFractal Design Define R4
電源Seasonic SS-850KM3 850W 80PLUS GOLD認証
音源8chオーディオ
税別価格1,019,980円
前面
こちらもカバーを開けると光学ドライブ。パネルの裏側には吸音材
左側面
カバーを開けたところ
背面
右側面
上面
底面
上部のインターフェイス
背面のインターフェイス
ディスプレイインターフェイス
こちらもマウンタはドライバーなしで外せる。HDDのネジにも吸音ゴム
電源ユニット
ビデオカードはGeForce GTX 970
CPUはXeon E5-2687Wv3
メモリは計32GB
ブート用のIntel 530 SSD
作業用のIntel DC P3600。読み込みは2.6GB/sec
データ用にHDD 2TB
CPUファン

 このマシンでは、ソニーの4Kカムコーダ「PXW-Z100」で撮影したXAVCフォーマットの4K/60P映像を編集してみた。モニター構成は同じで、ディスプレイ1に編集用画面を集め、ディスプレイ2に4K TVをHDMI 2.0で接続し、プレビュー用とした。

 XAVCは、いろんなソフトウェアエンジニアから「重い」と言われているが、プロの報道や番組といったジャンルでは避けて通れないフォーマットだ。多くの4Kカメラはデジタルシネマ用途なので、表現力は多彩だが、構えてすぐ撮るような用途には向いていない。報道・番組などロケで使える4Kカメラは、ソニー製以外に選択肢がないのが実情である。これをパッと取り込んですぐ編集に着手できる、報道・番組向けの4Kマシンという想定である。

 まず普通のカット編集は、難なくクリア。プレビュー出力もEDIUS特有のひっかかりがときたま見られるが、きちんと60Pで出力できており、簡易的な編集システムとしては成立している。

 もちろんプロ用となれば、プレビュー用モニターもプロ用になる。従ってグラフィックスカードのHDMIではなく、別途プロフォーマットでの映像出力用カードを挿して出力するのが最終形になるだろう。ただ現時点では4K/60P出力可能なカード自体も現在は選択肢が少なく、メーカー側の動作検証もまだこれからというタイミングなので、そこまで仕上げるにはもう少し時間が必要だ。

 GPUを使ったトランジションエフェクトは、映像フォーマットが変わっても問題なく動作する。テロップの挿入も、CPU使用率が80%を超えながらも、リアルタイムで再生できた。MP4時のCore i7と同じ程度の負荷だが、フォーマットの重さを見越してCPUスペックを上げた読みが、丁度ピッタリはまったと言えるだろう。

 ただマルチレイヤーに関しては、MP4+Core i7と同じく、2レイヤーまではなんとかリアルタイムで再生できるが、3レイヤーからは無理だった。ニュース編集であれば2レイヤーぐらい動けば問題はないが、番組ではワイプ+テロップ1枚ぐらいは普通にありうるので、できれば3レイヤーぐらいはリアルタイムで動いて欲しいところである。

単純なカット編集ではまだ余裕がある
トランジションやテロップも負荷は上がるが、リアルタイム処理可能
これぐらいの合成でも、リアルタイムでは再生できなかった

 しかしXeon E5の40スレッド(10コア×HT×デュアル)をフルに動かしてもまだ足りないとは、4K XAVCの負荷恐るべしと言ったところだ。

 タイプBの筐体はデュアルXeonとヒートシンク、ファンなど高さのあるものを収納する関係で、ミドルタワーとなっている。やはりこのクラスのスペックになると、内部に大量のストレージを搭載しなくても、このサイズになっちゃうということだろう。

検証でマシンの方向性が明確に

 本企画は、「こんなのお願いします。ハイできました」となるものではないのだと思う。放送用途も見据えて4K/60Pのリアルタイム編集に目標を置き、想定の元に組み上げてはみたが、実際に負荷をかけてテストしてみることで実際の性能や限界も見えてきた。

 つまり、4K/60Pの編集について今回のマシンは、カット編集程度なら難なくこなすが、マルチレイヤーなど重い処理もリアルタイムで処理できるという期待には届かなかったということだ。また、EDIUS Pro 7を使う限りでは、プレビューにも若干かくつきが出た。

 ただし、これらはマシンの構成に問題があったのではなく、現在のPCでは最高峰スペックでも4K/60Pはやや荷が重いということなのだ。この点については、アドビにも確認してみたところ、「現行バージョンのPremiere Proで、XAVC/XAVCSコーデックによる4K編集を行なう場合、30Pでのスムーズな再生を確認しておりますが、60Pでは現行存在する最高のスペック環境でもコマ落ちが発生しています」との回答が得られた。

 本企画の公開以降、Twitterなどでは多くの反響を頂いた。実際に今、4K素材はカメラさえあれば簡単に手に入るご時世だ。だがそれを形にするとなると、どうにも行き詰まっている人が相当いるということである。

 タイプAに関しては、デジカメやスマートフォン、GoProなどのコンシューマ向けカメラで撮って、カット編集などしてネットなりに上げるのがフィニッシュという目的には合致するだろう。

 タイプBに関しては、100万円オーバーのスペックではあるが、前述の通りこれでも放送目的のマシンとしてはまだ厳しい。それだけ4K/60Pのプロフォーマットは、重いわけである。これをマルチレイヤーで快適に編集するなど途方もない話のように見えるが、ちょうど10年前、HD素材をPCで編集するなんてとんでもない話であったことを思い起こせば、今は無理でも時間が解決する部分は多いはずと思っている。

 実際に4Kで、一般的なTV番組の放送が本格的に始まるのは、2016年以降のBS試験放送が開始されるあたりからだろう。ニュースや番組映像制作向けのマシンは、あと1~2年の進化を睨みながら、コストと性能のバランスを考えていくことになる。

 とは言え、タイプBが役に立たないというわけではない。リアルタイム性を求めないのであれば、業務用途にも使える。パソコン工房での検証によると、タイプAと比べ、Premiere Proのレンダリング速度は2倍以上高速だそうだが、エンコードの速度は約3割程度増に留まるそうだ。価格が2.5倍で、価格性能比で言うと割に合わないが、少しでも速く処理を終えたいのであればタイプAよりタイプBということになる。

 なお、Twitterなどでは、本システムでQuadroを採用しなかったことで、編集ソフトのCUDA機能が使えないのではと言う指摘があったそうなのだが、GeForceもCUDAに完全対応しており、Quadroとの機能差は全くない。異なるのは、各アプリケーションに対する動作認定が取れているかという点でしかないので、認定が不要なのであればGeForceで差し支えない。

製品の発売について

 今回の2製品は実際に製品化し、発売もする。ただし、試用している部材の入手性の問題から、こちらは仕様固定の受注生産販売となる。

 そこでBTOで多少構成を変えて購入したいというユーザー向けに一般販売するBTOモデルも用意されることとなった。興味を持った方は、下記URLも一度ご覧頂ければと思う。

 また、今回のタイプBについては、11月19日より幕張メッセで開催されるInter BEEのアドビブースに展示される予定となっているので、実機に触れてみたいという方は、そちらもチェックして頂ければと思う。

(小寺 信良)